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『息をするように浮気を繰り返す夫を捨てることにしました』─ 醒めない夢 ─
『息をするように浮気を繰り返す夫を捨てることにしました』─ 醒めない夢 ─
Author: 設樂理沙

1 ◇夫の転職

Author: 設樂理沙
last update publish date: 2026-03-29 22:57:52

 私の夫は聞く耳持たずで、私や私のほうの両親そして義両親とあらかた

近しい親族全員からの反対を押しきって、会社退職後大手系列のコンビニを

始めた。

 所謂フランチャイズ経営ていうヤツだ。

 夫がやりたがった理由はひとつだけではなかった。

 元々大手の企業に勤めていてそのまま行けば順風満帆なサラリーマン生活

を終え、優雅とまではいかなくとも私も手に職をもつ身であれば、ふたりの

年金でそこそこ安泰な老後を迎えられたのではなかったろうかと思う。

 しかし、夫はもっともしてはいけないことをやらかして

しまい、方向転換を余儀なくされてしまった。

          ◇ ◇ ◇ ◇

 私と夫との出会いは大学時代のバイト先だった。

 お互い、通っている大学は違っていた。

 就職先もまったくお互い違う職種だった。

 私の母親は結婚後はずっと専業で過ごし、結婚後

数年間を除きずっと父親に不満を持ち続けてきた人。

 母の口癖は『女も手に職を持たないとだめなのよ』だった。

 中学生になった頃から、折に触れ母親からこの呪文を聞かされてきた

私が選んだ職種は看護師だった。

 両親が些細なことで喧嘩になると、いつも下手に出て口を閉ざすしかない

母親の姿を見て、母の言い分は充分に理解できた。

 大学生になった頃、周りの友達たちが

『OLになって素敵な彼を見つけて、結婚したら子育てに専念したいし

旦那さんにも尽くしたいから絶対共働きなんてしないわ』

……と口にするのをよく耳にしていたけれど、その頃にはすっかり私の中から

そんな甘い発想は少しも湧いてこなかった。

◇モラハラ親父からの差別

 私の父親は相変わらずで、家の中では言いたい放題していて

年を重ねても丸くはならず、母はいつも窮屈そうにしている。

 私には3つ離れた弟がいる。

 何故か、いや根っ子には男尊女卑の考えが根強くあるのかも

しれない。

 とにかく私は父親からいつも厳しくて情け容赦ない言葉を

毎日毎日浴びせかけられてきた。

 そして不思議なことに同じようなことを言ったりしても

弟が嫌味を言われたりすることは皆無なのだ。

 毎日がそんなだったから、私はだんだんと父親を自然と避けるように

なっていった。

 ある日も父親が帰って来た気配で、私はこそこそと自分の部屋に逃げ込んだ。 

 玄関に入ってきた父親に、ちょうどその様子を見られてしまった

ようで父親が母親に

『なんだあいつは、ゴキブリのようにこそこそと』

と発言したのが聞こえてきた。

 その言葉に私は絶望し、死にたくなった。

          ◇ ◇ ◇ ◇

 私はあなたの娘になんて産まれてきたくはなかった。

 勝手に産んだのは…子作りしたのは…あんただろう。

 なのにこの仕打ち、あんまりじゃあないか。

 わたしは慟哭した。

 すると母親の泣き叫ぶような声が聞こえてきた。

「何言ってんのよ!

 そんなふうにさせてるのは一体どこの誰なの!

 果歩も祐一郎もふたりとも私たちの子供なのよ。

 なんでいつもいつも果歩にはきついことばかり言うのよ。

 同じにしてください。同じ扱いにしてください。

 自分の娘のことをゴキブリだなんて、あんまりだわ」

                     

 私は母の放った言葉にも悲しかった。

 私が弟と父親から差別を受けていることを表だって

つまびらかにされてしまったから。

 ここまでつまびらかにされてしまったら、もはや自分で

今まで必死で『自分の気のせい』と目を背けていた現実を、

見ないわけにはいかなくなったじゃないか。

 涙が零れた。

 泣いていたら父親の反撃の言葉が聞こえてきた。

 いつもは黙って引き下がるだけの母親が、今夜は一歩も

引かなかったことから、父親の言い方には少しキョドッてる

ような節が見受けられた。

 母の正論に向かう正当な…全うな言葉などあろうはずもなく、

父親が口にできたのはくだらない陳腐な…だがもっとも夫婦にとって

卑怯な言葉だった。

「じゃあ、離婚するか!」

 この呪文で私の母親の口を封じ込めたのだ。

 この時高校生だった私は、心《しん》から何があっても

自分で自分を支えることのできる仕事を得るのだと決心した。

 その日を堺に私の心にも母の心にもひとつの大きな杭が

大きく深く打ち込まれのだと思う。

 私と母にできる唯一のこと、それは

決して父親に自分達の大切な心…

大事な気持ち…

それらを向けることは一切しない、ということだった。

 それは心からのやさしさであったり…気遣いであったり…

言ってみれば、真心というヤツだ。

 目には見えないものだけど、とても大事なものだ。

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